ライブコーディングで作ったプラグインを整理して公開した

先日、ゴリラ.vim #9 に参加してライブコーディングをしてきた。

gorillavim.connpass.com

その際に作ったプラグインを整理して最低限の形した。整理する過程で色々変わったのでその話など。

公開したプラグインは以下。

github.com

どんなプラグインなのか

これは日本語における、ひらがな⇔カタカナの変換や全角⇔半角の変換をするプラグイン

極稀に欲しくなる操作で、サクラエディタなどには標準で付いている。Vim でもやりたかったので作ってみることにした。ネタとしても小さめでライブコーディングでもなんとかなるかなという目論見。

試験的なプラグインということもあって、無駄に最新バージョンの Vim を要求する。scriptversion 4 が通らない Vim では動かない。

プラグイン

変換するという想定でライブコーディング時には convja.vim という名前で作り始めた。

しかしあとであれこれ考えて、文字種の判定や抽出もできると便利かも(やるとは言っていない)と思い、汎用的な処理ができるように jautil.vim という名前にしてみた。無駄に汎用化してしまうのは私の悪い癖である。わかってはいる…。

インターフェース

ライブコーディング時では、以下のようなインターフェースを想定していた。

echo convja#convert('123アイウ', {'target': 'hankaku', 'type': 'kana'})
# => '123アイウ'

しかし作っているうちに紆余曲折があり、もっとシンプルに指定できるようにしたいなぁという気持ちになったので以下のような形式に落ち着いた。

echo jautil#convert('123アイウ', 'hankaku:kana')
# => '123アイウ'

簡易とはいえ特殊な文法を知る必要があるが、まあ辞書の形式を知るのと大差ないだろう。

拡張

第2引数の target に配列を渡せるようにした。これにより、まず半角カナを全角カナにし、その後全角カナをひらがなにすることで全角/半角両方のカナをひらがなに直す、ということが1度の呼び出しでできる。

echo jautil#convert('アイウエオカきくけこ', ['hankaku:kana', 'katakana'])
# => 'あいうえおかきくけこ'

また、第1引数に配列を渡すことで第1引数と第2引数を入れ替えられるようにした。これにより、partial を使って特定の変換をする関数を用意することができるようになる。

let H2Z = function('jautil#convert', [['hankaku']])
echo H2Z('abc')
" => 'abc'

今後の展望

あれこれこうできたらいいなと思っていることはあるが、優先度は激低なのでやるかは不明。ライブラリだし vital module 化したいよなー。

もっとちゃんと使いたいぜって人がいたら Issue を立てたりしてください。やるかどうかはわからないですが…。

ゴリラ.vim #1 に行ってきた

ゴリラ.vim #1 に行ってきた。

この規模の Vim イベントで定員オーバーは初めて見たかもしれない。しかもまだ実績のない第1回でこれなのだから、ゴリラさんの求心力の高さが伺える。

会場は渋谷ヒカリエにある株式会社ディー・エヌ・エーさん。セキュリティゲートの受付で思わず「うほうほ」と挨拶しそうになったけど、なんとか堪えました。危なかった。

発表は初心者向けから上級者向けまでいい感じにバラけており、後になるほど高度になっていく感じで発表順序も完璧だった。満足度が高い。

dice_zu さんが私の作った showtime.vim を使ってくれてて嬉しかった。もうちょっとちゃんとメンテしないと…。

懇親会では寿司とカツサンドをつまみながらおしゃべり。学生さんが多かった印象。ちょいちょい移動しつつ話してたけども、更にもうちょっとあちこち移動して話をすれば良かったと少し後悔。

この感じのイベントを今後は毎月のペースでやる予定とのことで、今後が楽しみです。

帰り際のゴリラさんとの会話

ゴリラさん「thinca さん、次回は発表してください!」

マンボウ「そうですね。検討してみます」

ゴリラさん「検討じゃなくて、してください!」

マンボウ「あ、は、ハイ…」

ということで次回は何か発表することになった。進撃のゴリラには敵わなかったよ…。何を話そうかなぁ。

VimConf 2018 で Bram Moolenaar さんと会った話

2018年11月24日に VimConf 2018 が開催されてから、早いものでもう 2 週間経った。

2 週間経ってしまった…。2 週間…早い…。

このままだと私の VimConf が終わらないので、正直何を書けばいいのかわからないのだけど、なんか書こうと思う。

VimConf 2018 前日

今年の VimConf は色んな意味で、忘れられないものになった。

2018 年 11 月 23 日。若干の発熱により、私は寝込んでいた。翌日には VimConf が控えていると言うのに、ここに来てまさかの風邪…。 幸いにも辛さはほぼなく、微熱が主な症状。一日中寝て過ごすことになったわけだけど、この間にも様々なことを考えた。

症状がひどくなったら VimConf は欠席せざるを得ない。私は当日にするべきタスクを持っていなかった*1ので、最悪私がいなくてもイベントの開催には支障がない。とは言え半年以上かけて準備をしてきたイベント。しかも Bram さんと会えるまたとない機会。これを逃がしたら次はないだろう。Vim に携わる者として、多少無理を押してでも行きたい…。しかし Bram さんに会えたとして、私は英語が大の苦手である。言いたいことはほとんど言えないだろう。Bram さんが何を言っているのかも、聞きとれる自信がない。正直、その点で言うと会うのが怖くすらある。そしてもちろん、症状が回復したとしても病み上がりの身。周りには迷惑をかけることになるだろう。だとしても…。

VimConf 2018 当日

そうこうして迎えた 2018 年 11 月 24 日。体調は完調とまでは行かないものの、出かけられそうなくらいにはなっていた。後悔はしたくない。普段より厚着をして、あまり好きではないマスクを着け、意を決して家を出た。

予定より少し遅れて会場に着くと、すでに開場待ちの人達がちらほら。KoRoN さんに呼ばれてスタッフルームに入る。「Bram さんもう来ているよ。mattn さんと話してる」

本当にこの時が来たのだな、と思った。その後、まだ開場前のホールで、Bram さんと会った。私は名前くらいしか言えなかった。そしてたぶん、私のことなんて Bram さんは知らないだろうと思う。スタッフジャケットを着ていたので、かろうじてスタッフだということは伝わった気がする。握手してくれた。めっちゃドキドキした。

ただでさえない文章力が崩壊してきた…。えーと、ともあれ私は Bram さんと対面することに成功した。でもやっぱり何も話せず、懇親会も含めてこの日は Bram さんとはこれっきりだった。

VimConf 2018 翌日

2018 年 11 月 25 日。VimConf 2018 も終わり興奮も冷めやらぬ中、VimConf の裏イベント、vimthon が開催された。VimConf スタッフと一部の Vim 開発者、そして Bram さんを迎えてわいわい Hackathon をするイベントだ。当日の様子をまとめた Togetter がある。

f:id:thinca:20181125093709j:plain
VimConf Hackathon

体調が悪化していたらキャンセルしようかとも思っていたが、幸いにもどちらかと言うと回復してきていたので、こちらも参加できた。

全員が揃ってしばらくしたところで、全員がそれぞれ自己紹介。中には簡単なものではなく、人によっては作ったもののデモなどをガッツリ、と言う感じの濃い自己紹介もあった。

座席の配置の関係で、最後は私の番。簡単に済ませることもできたのだけど…ここは少し勇気を出して、自分で作ったプラグインをいくつか紹介した。あまり多くの種類はデモできなかったけれど、どのプラグインを見せようかと選ぼうとした際に vimrc に書かれた私のプラグインのリストが画面に映り、これは全部私が作ったものだ、という話をした。

会の終わり際、Bram さんが帰る頃合いになった。別れを惜しみつつみんなそれぞれツーショット写真を取ったりした。その際に Bram さんに、「プラグインをたくさん作ってくれてありがとう」と言われた。多分。英語のヒアリングに一切自信がないけど、たぶん言われたと思う。本当に嬉しかった。

最高の体験

いつにも増して文章力のないただの日記になってしまった…。とにかく私は最高の体験をしました。

ここのところ Vim 活がまったく捗っておらず、いかんともしがたい状況が続いているので、Vim 活がんばろう。

おしまい。

*1:私に限らず、当日にするべきタスクを極力減らす方向でスタッフ全体で準備していた

Travis で並列テストが終わってから deploy する

Travis では複数のジョブを並列で実行できる。複数の処理系のバージョンでテストを回したりするのはよく行われている。

また、Travis は後処理でデプロイも行える。専用の設定をする項目があり、一部の有名所のデプロイ先については雛形が用意されていてオプションの項目を埋めるだけだ。

私は今まで Travis から https://www.npmjs.com/ へ npm パッケージをデプロイする設定をしていたのだけど、普通に設定しているだけだと並列で実行されている全てのジョブがデプロイを実行するので、多重デプロイが発生していることに気付いた。

幸い www.npmjs.com は同じバージョンのデプロイをエラーとして弾いてくれていたのでデプロイ自体は問題なく行われていたが、いかんせん無駄だし、気持ち悪い。また、この設定だと一部のジョブでテストが失敗しても、どれか1つが成功してしまえばデプロイされてしまう。これは問題がある。

そこでなんとかする方法を調べた。

Build Stages

Travis には Build Stages というまさに今回の問題のための機能があり、これを使えば問題が解決することがわかった。

全てのジョブはいずれかのステージに紐付けられており、各ステージではステージ内の全てのジョブを並列に実行し、かつそれぞれステージはステージ内のジョブが全て成功してから次のステージに進む。

実は何もしなくても、通常の設定のジョブは全てデフォルトである test ステージに属していることになっている。

今まで行っていた設定は以下のような感じ(一部改変)。

language: node_js
node_js:
  - "node"
  - "6.0"
  - "6"
  - "7.0"
  - "7"

sudo: false

cache:
  directories:
    - node_modules

before_install:
  - npm install -g codecov

script:
  - npm run lint
  - npm run coverage  # テストしつつカバレッジを取る

after_success:
  - codecov

deploy:
  provider: npm
  skip_cleanup: true
  email: thinca+npm@gmail.com
  api_key:
    secure: {travis encrypt コマンドで設定した値}
  on:
    tags: true

これを以下のようにした。前半は全く同じで、最後だけ違う。

language: node_js
node_js:
  - "node"
  - "6.0"
  - "6"
  - "7.0"
  - "7"

sudo: false

cache:
  directories:
    - node_modules

before_install:
  - npm install -g codecov

script:
  - npm run lint
  - npm run coverage  # テストしつつカバレッジを取る

after_success:
  - codecov

jobs:
  include:
    - stage: npm release
      if: tag IS present
      node_js: "node"
      cache: {}
      before_install: skip
      install: skip
      script: skip
      after_success: true  # Don't skip: To trigger the deploy
      deploy:
        provider: npm
        email: thinca+npm@gmail.com
        api_key:
          secure: {travis encrypt コマンドで設定した値}
        on:
          tags: true

まず前提として、これは Git のタグを push した時にだけデプロイをする設定だ。if: tag IS present で、タグが存在する場合にのみこのジョブを実行する。このジョブは stage: npm release によって npm release ステージに属しており、これはデフォルトの test ステージの次に実行される。

jobs.include 以下の各ジョブは、トップレベルの設定を引き継ぐ。しかし、デプロイ時に再度テストを実行する意味はない。そこで各ステップを skip として飛ばすようにしている。この辺りは、テストの設定も jobs.include に書いてしまえば解決するのかもしれないけど、試していない。

そして次がハマったところで、どうも after_successskip してしまうと、デプロイ処理自体行われなくなってしまう模様。ドキュメントにも特に記載が見つけられず、かなり試行錯誤した。なのでここは skip せず、適当に何もせず成功するコマンド、今回の場合は true コマンドでトップレベルの設定を上書きした。

という感じで、無事Travis から npm パッケージのリリースに成功した。

これで今後は npm version patch 等でバージョンコミット&タグを作成したあと git push origin master --tags でタグを push するだけで npm パッケージがリリースできる。ラクチン。

builderscon tokyo 2018 に行ってきた

「知らなかった、を聞く」でおなじみ、builderscon tokyo 2018 に行ってきた。初参加!

行けば何か面白い話が聞けるだろうという感じで講演内容はあまり事前に確認してなかった。適当すぎた。 しかし期待を裏切らず、面白い話をたくさん聞けた。

個人的に特に興味深かったのが bokuweb さんの「ファミコンエミュレータの創り方」(発表資料)。若干の興味はありつつも自分でガッツリ調べるまでは行かない分野だったので、聞けてよかった。

また、今回わかったのは、いくら「知らなかった、を聞く」と言えども、基礎もまったくわかってない話を聞いても何もわからないということ。まあ当然なんだけど。

とあるセッションにうっかり間違えて入ったのだけど(スマヌ)、間違えたとは言え知らないから聞いてみるかって聞いてたけど全然わからなくてとてもつらかった…。他に移るにしてもほとんどの部屋は満席なので移動も困難。ちゃんとある程度はわかりそうなセッションを選ばないといけない。これ以降、セッション選びに慎重になった。

どのセッションでも最後に質疑応答タイムがあって、こういう場って質問を募っても質問がないってことも割とある気がしてるんだけど、builderscon ではどのセッションでもちゃんと毎回質問が出ていた。結構すごい気がする。あれ、でも私が知らんだけで最近はそういう感じなんだろうか。わからなくなってきた。

ランチセッションは行ってるとごはん食べてる時間がなくなって午後に死ぬので、諦めました。残念。

1日目のランチは、事前にカレー好きの同僚に日吉に行くと言ったら、ではここに行ってくださいと紹介されたハイ,ハウ アー ユーへ行った。早めの時間だったからかほぼ並ばずに入れて良かった。 ハーフ&ハーフでキーマカレーとチキンカレーを選んで、温泉玉子をトッピングしてみた。キーマが結構辛かったけどうまかった。

f:id:thinca:20180907115631j:plain

2日目は、ノープランで会場を出たところでバッタリ purintai さんと会い、お昼のお店まだ決めてないと言ったら、ココがオススメって言われたのでとんかつ 和栗へ。ここまで来てケチっても仕方ないだろって言って頼んだのが特上ヒレかつカレー。またカレーか。かつめっちゃうまかった。

f:id:thinca:20180908125022j:plain

と言うわけで何もまとまりのない感想を書きつらねてみた。普段あまり大規模なカンファレンスはなかなか行かないのだけど(疲れちゃうし)、やっぱりこういうところで話を聞くと自分もやらないとって気持ちになるので、いいですね。あとはこういう場で得たエネルギーをちゃんと活用できるといいのだけど…がんばろう。

Docker Hub で Vim の最新版をタグ付きで自動ビルドするようにした話

今まで Docker Hub 上で最新の Vim のビルドが行われるように設定していたが、ふと思い立って過去のバージョンについても一通りタグに残ってると良さそうだと思って設定した際の記録。

ちなみにこの作業を開始したのは 2018 年 1 月です。どんだけかけとるんだ。

作業前の状態

Docker には Build Trigger 機能があり、URL を叩くことで任意のタイミングでビルドを走らせることができる。

この機能を使い、IFTTT の RSS Feed サービスで Vim のコミット Feed を監視して、新しいコミットがあった際にトリガーを実行し、Webhooks サービスを使って Docker の Build Trigger の URL を叩くことで、latest が常に最新の Vim のバージョンになるようにしていた。

これだと常に最新版の Vim のイメージは作られるが、過去のバージョンについては参照できない。

目標

  • Vim の公式リポジトリに新しいコミットがあったら、自動で Docker Hub 向けにビルドを行う
    • バージョンでタグを付け、過去のビルドも参照できるようにする
  • Vim 7.4 以降の過去のバージョンについてもビルドを行い、参照できるようにする。
  • Docker Hub 側で自動ビルドを行う (自前のマシンでビルドして push はしない)
  • トリガー部分も無料でがんばる
    • 個人的には自宅サーバを使う手もあるが、これは使わないでやる

Dockerfile

まずは指定のバージョンの Vim をビルドできるように ARG として VIM_VERSION を追加した

今までは常に最新の Vimソースコードを取得してビルドしていたが、引数によって特定の Vim のバージョン(Git リポジトリ上の reference)のビルドができるようになった。

また、せっかくなので各種外部インターフェースの有効無効も環境変数で設定できるようにしてみた。デフォルトは全てオフで、VIM_ENABLE_ALL を空以外にすると外部インターフェースが有効になる。

Docker Hub 側の準備

次に Docker Hub で前述のタグを利用したビルドを行えるようにする。

Docker Cloud には実際のビルド処理をスクリプトで置き換える機能があり、実はこれは Docker Hub でも使える1

autobuild のリポジトリ内の Dockerfile と同じディレクトリに hooks/ ディレクトリを作成し、その中にbuild という名前の実行可能なスクリプトを置いておけばよい。今回の場合は以下のようなスクリプトを用意した。

#!/bin/bash

# 実際にはもっと色々している
# VIM_VERSION に指定している ${SOURCE_BRANCH} については後述
docker build --build-arg "VIM_VERSION=${SOURCE_BRANCH}" --build-arg "VIM_ENABLE_ALL=" -t "${IMAGE_NAME}" .
docker build --build-arg "VIM_VERSION=${SOURCE_BRANCH}" --build-arg "VIM_ENABLE_ALL=yes" -t "${IMAGE_NAME}-full" .

通常ビルド(外部インターフェースなし)と、フルビルドをそれぞれ用意することにした。追加のイメージができるので、push 時に追加で push する必要がある。このために、動作を置き換えるのではなく追加の処理をするために post_push スクリプトを用意する。通常の push のあとに実行される。

中身は v8.0.xxxx-full のような full 付きのタグを push しているのと、現在のビルドが最新版だった場合は同じイメージを latest としても push している。

この結果、以下のようなファイル配置になった。

|- Dockerfile
`- hooks/
   |- build
   `- post_push

ビルドのトリガー方法

Vim のコミット Feed を参照して、新しいコミットがあったらビルドする点は変わらない。ただし、今までは常に最新版をビルドしていたが、今回からは指定したバージョンをビルドする必要がある。

ビルドトリガーから任意のパラメータを環境に渡す方法は見付けられなかった。そこで一般的なフローと同様に、タグが push された際にそのタグをビルドするようにした。これは先ほどのスクリプト内で参照している ${SOURCE_BRANCH} で取れる。

厄介なのは、Autobuild で連携しているリポジトリを取得する部分は変更できなさそうだということだ。どうも Docker Hub の Autobuild は Dockerfile があるリポジトリとプロダクトのリポジトリが同一である想定であるらしく、連携しているリポジトリにタグが push されるとビルドがトリガーされてそこから対象タグを clone し、Dockerfile を参照してビルドする。

つまりどういうことかと言うと、今回のようにプロダクトのリポジトリDockerfile を管理しているリポジトリが別になっている場合、Dockerfile しかないリポジトリに対して v8.0.0000 のようなバージョンのタグを無駄に push することになる。 仕方ないので今回はこの方法で行くことにした。つまり、Dockerfile を管理しているリポジトリに対して Vim のバージョンのタグを push すると、Docker Hub 上でそのバージョンの Vim のビルドが走る仕組みになる。

ビルドをトリガーする

Web hook を叩く方法から Git リポジトリにタグを作る方法になったので、GitHub API でタグを作ることにする。

これまでと同じように IFTTT でやりたいところだが、GitHub API は User-Agent の指定を必須としているところ、IFTTT は User-Agent を送らず、また HTTP リクエストヘッダを自由にカスタマイズすることができない。つまり IFTTT は今回は使えない。

そこで今回採用したのが Google Apps Script だ。採用した理由は、無料だから。

で、今回のために作ったのが以下。

https://github.com/thinca/gas-docker-vim-updater

せっかくの機会なので TypeScript に入門してみた。ので、余計に時間がかかった…。

RSS フィードを読む機能が必要だったため、今回のためにそのためのライブラリを自作した。過去に読んだフィードは Google スプレッドシートに記録し、新着を抽出する。

Google Apps Script には、定期的に関数を実行する機能があるため、これを使って RSS フィードをチェックし、更新があれば GitHub API を叩いてタグを作成するようにした。

不要になったタグを削除する

タグはビルドのトリガーにするために必要なもので、ビルドが終わったタグについては不要になる。これは消したい。

Docker Hub には、ビルドが終わって push された際にそのイベントを WebHooks で通知する機能がある。そして Google Apps Script は Web アプリとしてエントリーポイントを持つことができる。これを利用して、ビルドが終わって Docker イメージが push されたらそのイベントを Google Apps Script に通知し、そこから GitHub API を叩いてタグを消すようにした。

過去のバージョンをビルドする

最新版はビルドされるようになった。しかしこれだと過去のバージョンはビルドされない。

そこで少しずつタグを作っていく Ruby スクリプトを書いて、これを走らせた。実際には運用しながら少しずつスクリプトを修正、改善していった。

一気にタグを作らなかったのは、そうすると最新版が来たときにキューが詰まっていてなかなかビルドされなくなるからである。実際に全てビルドし終えるのに1ヶ月以上かかった。また、キューを大量に積むとなんとなくまずそうな気がしたというのもある。

中にはそもそもビルドが通らないバージョンが存在したり、Docker Hub が謎のエラーでビルドを失敗させたりしてかなりカオスだった。

課題 - 失敗したビルドに対応する

過去のバージョンをビルドしていてわかったことだが、前項で少し触れたように、ビルドできるはずのバージョンがビルドに失敗することは割とある。例えば apk でパッケージの更新に失敗すると言ったわかりやすいネットワーク由来のものから、コンテナの構築になぜか失敗するというよくわからないものまで様々な理由で失敗する場合がある。これらの失敗は多くの場合、再ビルドを実行すれば問題なくビルドが通る。

さて、これに対応したいところなのだが、難しいことに、Vim はビルドできないバージョンがリリースされることがありえる。これは今でも Bram さんの手による暖かみのあるパッチリリースが行われている賜物である。

そう、つまりこれだと、Docker Hub 由来でたまたま失敗したのか、そもそもビルドが通らないのかがわからない。従って、失敗していたら再実行するというソリューションは使うのが難しい。やるとしても回数制限してやる感じになりそう。

というわけでつらいので今のところやってない。せめて Vim のリリースが全てビルドが通ることが保証されてればなー2

やってみての感想

結果的にかなりあれこれすることになって大仕事になった割にどれだけ活用できるか不明だけど、あれこれ触れたのはよかった。しかし、時間をかけすぎた感がやばい…。

CI とかバグ調査等に使える可能性がなきにしもあらずなので使いたい方はどんどん使ってください。


  1. Docker Cloud と Docker Hub の違いをよくわかってない…。

  2. とは言えコンパイラのバージョンとか外部インターフェースのバージョンの依存で落ちる場合までは保証できないだろうしどちらにしてもつらそう。

Vim の問題を調査したときの記録

先日私の環境で起きた Vim に関する問題を調査した際の記録。一例なので汎用的に使える手法ではないけど、こういう感じのことをしているよというのを書き留めておきます。

結果的に無駄だった工程も書いています。1 本道で調査が進むことの方が珍しく、だいたい回り道します。

問題

cgn で検索のマッチ対象を別のキーワードに置き換えたあと . で繰り返すと、Bell が発生する。」

cgnc + gn で、gn は検索にマッチした範囲です。つまり検索にマッチした内容を c で書き換え、. で次のマッチ対象にも同様の変更を行います。1 つずつ確認しながら置換したい場合などによく使われる操作です。

問題について

Vim では不正な操作をした場合など様々な場面で警告としてベルを鳴らします。 例えばノーマルモードでそれ以上移動できない方向に移動しようとした場合など、割と些細なことでも鳴ったりします。

人によっては煩わしくて鳴らないように設定している人もいると思います。プラグインの利用者であればそれも良いかと思います。無効にしてしまえば今回の問題は解決します。

しかし、ベルを無効にすることはコンパイラの警告を全て無視しているようなものです。私は Vim プラグインの開発をしているので、些細な問題にも気付けるようにベルは有効にしています。

調査

ベルの厄介なところは、「何か問題が起きた」ということしかわからないところです。メッセージすらない…ハードモードです。

何由来のベルか調べてみる

ベルは 'belloff' オプションを使うことで種類ごとに抑制できます。これを使えば何の操作でのベルか絞れるかも…? と思って設定してみることに。

たぶんこれかな…と思い最初に error を設定してみると、見事エラーは抑制されました。 error は「その他のエラー」。何もわからないということがわかった…1。結果的にこの調査は完全に無意味でした。そういうこともある。

キーマッピングを確認する

. でエラーが起きるので、. に何か機能が割り当てられていないか確認。repeat.vim をインストールしていたのでこの辺りかもしれないと睨みました。 しかし実際に nmap . で設定を調べてみると、何も割り当てられておらず。repeat.vim にはいくつか派生バージョンがありますが、私が使っているものは repeat#set() が呼ばれるまでキーマッピングの設定をしないようです。

またもあてが外れましたが、徐々に絞れてきています。

autocmd を確認する

. がデフォルトのままだとすると、そこでエラーが起きるとすれば autocmd の発動によるものである可能性が高いです。 . で起きるイベントとなると…たぶん TextChanged かな? ということで TextChanged について調べることに。

:autocmd TextChanged
--- Auto-Commands ---
ALERunOnTextChangedGroup  TextChanged
    *         call ale#Queue(g:ale_lint_delay)
anzu  TextChanged
    *         call anzu#clear_search_cache()
vimconsole  TextChanged
    *         :call <sid>text_changed()
plugin-wtrans  TextChanged
    wtrans://source/*
              call wtrans#buffer#translate(expand('<amatch>'))
neosnippet  TextChanged
    *         call neosnippet#handlers#_restore_unnamed_register()
plugin-unite  TextChanged
    <buffer=2>
              call unite#handlers#_on_text_changed()

内容は記事執筆時点で再現のために出したものなので調査時とは少し違うかもしれません。 ともあれこの中に原因があると踏んで、1 つずつイベントを削除して、問題が再現するか確認します。ただし plugin-wtransplugin-unite はパターン的に発動しないことが明確なので最初から除外可能です。

:autocmd! ALERunOnTextChangedGroup TextChanged

1 つずつ消して、問題が再現するか試していきます。しかし全部消してもエラーは出続けました。むむむ。

実際に起きている autocmd を確認する

ざっくり雑に TextChanged かな、と疑ってみましたが、そもそもこの予想が外れていそうです。実際に起きているイベントを確認してみることに。 こういう場合は 'verbosefile' を使うと便利です。

:set verbosefile=/home/thinca/log.txt
:8verbose normal .
:set verbosefile=

起きたイベントがファイルに記録されます。ログレベル2をもっと上げれば、実行された全てのスクリプトの行が記録されるので、それを使うこともありますが…今回はベル。ベルは記録されていないので、全てのログを出してもどこで問題が起きたかはわかりません。そこで今回はイベントだけ出します。

と言うわけで実行してみた結果(一部抜粋):

InsertEnter Auto commands for "*" を実行しています
InsertLeave Auto commands for "*" を実行しています

InsertEnterInsertLeave でした!そもそも TextChanged は実行されてなかった。

考えてみれば cgn は一旦挿入モードに入ってテキストを変更するので、. でリピートしたとしてもそこは変わらないわけですね。

というわけで今度こそ。

InsertEnter のイベントを確認する

先ほどやったように 1 つずつイベントを消して、再現するかどうか確認します。すると、以下の箇所で問題が発生していることがわかりました。

neocomplete  InsertEnter
    *         call neocomplete#handler#_do_auto_complete('InsertEnter')

ここまでわかればあとは該当コードを追っていけば良さそうです。

該当コードを追ってみる

この先はおまけ。該当コードは以下のようなもの。

function! neocomplete#handler#_do_auto_complete(event) abort "{{{
  if s:check_in_do_auto_complete(a:event)
    return
  endif

  if g:neocomplete#auto_complete_delay > 0 && has('timers')
        \ && (!has('gui_macvim') || has('patch-8.0.95'))
    if exists('s:timer')
      call timer_stop(s:timer.id)
    endif
    if a:event !=# 'Manual'
      let s:timer = { 'event': a:event }
      let s:timer.id = timer_start(
            \ g:neocomplete#auto_complete_delay,
            \ function('s:complete_delay'))
      return
    endif
  endif

  return s:do_auto_complete(a:event)
endfunction"}}}

+timer が利用可能な場合に少し待ったのちに s:complete_delay() を呼び出しています。s:complete_delay() 内では、補完処理を行っています。

ここで実際に起きている処理を思い出して見ます。cgn. で繰り返すと、一瞬挿入モードに入ってすぐに抜けるのでした。つまり s:complete_delay() が呼び出される頃にはすでに挿入モードを抜けています。今回の問題は、ノーマルモードで補完処理を行おうとして起きていたものでした。

ちなみに、この問題はすでに修正してもらえました。Shougo さん、ありがとうございます!

まとめ

Vim で問題が起きた際の調査の一例でした。

今回の例は再現率が 100 % だったのでなんとかなりました。トリガーがわからないとその分難しくなります。

他に汎用的な手法として、プラグインを少しずつ無効にしていってどのプラグインが原因か調べる方法もあります。プラグイン数が多いと大変ですが、確実性は高いです。問題を起こしているプラグインさえ特定できれば、最悪原因がわからなくても最小構成での再現を作ることでバグレポートを出すこともできます。

バグ調査は地道な作業ですが、快適な編集環境のためにできることからやっていきましょう。


  1. 正確にはその他のエラー以外のエラーではないことがわかった。

  2. 例で設定しているのは8。詳細は :help 'verbose'